もうひとつの恋

「よしっ！」と気合いを入れて覚悟を決めると、握りしめていた携帯電話の通話ボタンを押した。


ﾌﾟﾙﾙﾙﾙ……ﾌﾟﾙﾙﾙﾙ……ﾌﾟﾙﾙﾙﾙ……ﾌﾟﾙﾙﾙﾙ……ﾌﾟﾙﾙﾙﾙ……


なかなか出てくれないコール音にドキドキしながら、もう切ってしまおうかという思いが頭をよぎる。


その時、カチャッとコール音が止み、ちょっと緊張したような声が聞えてきた。


「はい、もしもし……」


彼女のその様子から、自分の番号が登録されていないことがわかってガッカリした。


でも気を取り直して自分が何者かを明かすため急いで名乗る。


「お久しぶりです

あの……桜井です

急に電話してしまってすみません」


俺だとわかると、彼女の声のトーンが変わった。


いつもの柔らかで優しい声になる。


「桜井くん？

久しぶりだねぇ！元気だった？」