もうひとつの恋
すぐにそう言われて、俺はなんともいえない幸せな気分になる。


「名前はなんて言うんですか？」


「健太って言うの

元気な男の子よ？」


そう愛しそうに子供の名前を口にする女に、俺は自分にはない母性を感じた。

母親ってこんな風に自分の子供の名前を呼ぶんだな？


俺はなんともいえない感情に戸惑う。


俺もこんな風に呼ばれてたんだろうか？


彼女の子供への愛情を強く感じて、急に自分の母親のことを思い出した。


やっぱり女性は強いな……


男も女も母親から生まれてくるんだから当然といえば当然なんだけれど……


いや、女性というより母親という生き物が強いのかもしれない。


「桜井くん？」


そう声をかけられて現実に引き戻された。


「健太かぁ

いい名前ですね！」


そう誉めると彼女は嬉しそうに答える。


「ありがとう

いつでも会いに来てね？
健太のいいお兄ちゃんになってくれると嬉しいな」


さとみさんの言葉はいちいち俺を喜ばせてくれる。


絶対健太のいいお兄ちゃんになってやる！


近々会いに行くことをさとみさんに約束して、俺は静かに電話を切った。


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