Life



「この、マカロニグラタン。美味しそうです。」


 ふっと、思ったことを口にすると、彼は嬉しそうに頬を緩めてくれた。その、仕草が妙に優しく包んでくれるようで、私までも嬉しくなった。


「わかりました。これにします。」


 私がそう言うと、彼は、私の手からメニューを優しく引きぬくと、


「俺も。これ好きだからこれにする。」


 と言った。どこか、むず痒くてでも、嬉しくて。そっと、顔を手元におとした。 人と付き合うことをこんなにも拒んでいたのに、この人だけはどうしてもするすると受け付けてしまう。そんな自分の変化がどうしてかどこか嬉しくなってきてしまうのは、相手がこの人だからだろう。


 彼が、店員さんを呼ぶための呼び鈴を鳴らすと、すぐに若い女の人が来た。その人はそこのお店の制服を身にまとっていて、化粧もしている。すごく、綺麗で女の私でさえもどこか見惚れてしまっていた。じっと、その女性を眺めている私に対して、彼はオーダーをすぐにとると、彼女に優しく笑顔で「よろしく」と、手を振った。どうしてだか、それがちょこっと痛かった。ちくりとする胸の痛みともやもやとする胸の影が、一瞬だけ現れた。そして、そっと、先程の映画を思い出した。映画の主人公(女の子)は男の子が好きで、でも、他の女性を見るとイラってしていたりとか優しくしてもらっているとどこか嬉しそうに頬を緩めていたりとか。そう言うシーンって今の私に少しリンクしているんじゃないかって思ってしまった。


(…………ない、かな。)


 そして、私は、それを否定した。そっと、顔を上げた時に、目の前にジュースの入ったコップが置かれた。中はオレンジジュースで、炭酸入りだった。私がきょとんとした表情でそれを見つめていたから、彼は不安そうに、表情を歪めた。


「ごめん。ドリンクバーあるから、とってきたんだけど。嫌いだった。」


 その優しい問いかけに私はそっと首を振るのだ。彼は本当に親切にしてくれる。オレンジジュースは嫌いじゃない。でも、好きでも無い。所謂普通である。そして、炭酸も一緒。だから、普通に嫌いと聞かれたら素直に首を横に振ることが出来る。


「嫌いじゃないです。ありがとう。」 


 そう言うと、彼はホッとしたように口許を緩めた。私は、それを上目遣いで見ながらそっとコップの縁に口をつけて、ゆっくりとそれを喉に通していった。ちょっとずつちょっとずつ。微量な炭酸が優しく口の中と喉を刺激し、甘酸っぱいオレンジの酸味が程良く口の中で溶けていく。純粋に美味しかった。





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