Life
□温かいモノ
いつもと言ったら確かにいつもなのだけども、どこか自分の中がいつもじゃない朝。昨日学校を休んだ為か、少々気後れしていた。しかし、制服を羽織るとその気遅れと逆にずっと清々しくて、ずっと軽く感じた。だからなのだろうか。私は、そっと足を出すとそれが踊り出すんじゃないかと言わんばかりに軽く浮いているようだった。一歩一歩を跳ねるように進み、キッチンに行くことにした。すると、唯一、一枚だけとった祖母と私の写真の入った写真立てが目に映った。それは、今まではモノクロに見えていた。しかし、今ははっきりとカラーに見えた。そっと、その写真立てを優しく撫でると知らずと口が開いていた。
「おはよう。おばあちゃん。」
今まで言えなかった。死んで、あの人に気がされて初めて言えた一言。嬉しくて、つい口元が緩んでいることに気が付いた。そして、再び同じ歩調で私はキッチンへと目指した。朝の御弁当を作る為である。冷蔵庫にあるものを確認して食材を並べる。昨日の残りものなどを組み合わせるとしても、結構食事バランスの良いものが出来あがったと自分で自作自賛する。それを、スクール鞄とは別のサブバックに入れると、リビングを抜けようとした。すると、滅多になる筈のない電話が鳴った。それは、部屋中に響き渡り、とても綺麗だ。私は、鞄を床に置くと呼び鈴の鳴る電話を恐る恐るとる。
「も、もしもし。」
『もしもし。お母さんよ。どう。元気している。』
驚いたのは思いもよらなかった母からの電話だった。私は、一瞬思考が停止した。そして、口を開こうとしては閉じての繰り返しをした。
「元気だよ。そっちは。」
その一言が言えず口を開いては閉じてを繰り返している。両親は仕事が忙しい人たちだが、嫌いじゃない。寧ろいつも私を気にかけてくれる優しい人たちでとても好きなのだ。これぞ家族って感じの人たち。だから、一言を口にしないと、と焦っては何も言えない。そして、何も言えず、でも、嬉しさのあまりに興奮しているからなのかぼろぼろと涙が落ちていく。その、変化に気が付いたのは流石の母である。例え年に一回しか会えなくたって、娘の変化にはきちんと気が付くものらしい。母は、私の名前を優しく呼ぶと。
『どうしたの。』
と、心配そうに聞いてきた。
「なんでもない。元気だよ。電話、凄く嬉しい。」
文になっていない私の口語を、それでも、汲み取ってくれて遠くで小さく笑ったのがわかった。
『いやぁね。そんな、辛気臭いじゃないの。今から高校に行くんでしょ。その前に話がしておきたくてね。』
と、一区切りをいれた。私は、なんのことなのかよく分からなくて、息をつめた。一体何があちらで起きたのだろうか。そう、思って身構えていた時だった。