僕は何度でも、きみに初めての恋をする。
ハナが、パタンとノートを閉じて大事そうにバッグにしまった。
「俺に付いてきて欲しくはないみたいだから、一緒に帰るのはやめておこう。っていうつもりで書いたんだって解釈して、今日もそうしたんだけど」
ゆっくりとわたしと目を合わせるハナは、珍しくムスッとした顔をしている。
怖くはないけれど、普段そういう顔をしない分、見ると少しどきっとする。
顔が自然と引きつるのは、仕方のないことだと思う。
「でも家が遠いならやっぱり危ないし、今日は送っていくよ。もうこんなに暗いしね」
「いや、あの、でも、本当に大丈夫だから。ひとりで帰りたいっていうの、合ってるし……」
「それは俺を納得させられるだけの理由なわけ?」
「う……えっと……」
知らず知らず俯いてしまう。
正面で組んだ手で、スカートを、きゅっと握る。
「ハナに……来てほしくなかったから。わたしの場所に。ハナとは、違う。だから……」
それはとても説明なんて言えるものじゃなかった。
あやふやで、不明瞭で。だって言葉にするのは、難しすぎて。
それでも。ハナは受け取ってくれる。それでいて。
「俺は、気にしないよ」
「わたしが気にするの! 絶対に、ハナには……」
言葉が詰まった。
しばらく、しんと静まり返って、それからすぐ脇を車が通り過ぎていったのを合図にしたみたいに、ハナが小さく息を吐いた。
「……わかった。ごめん。セイちゃんが嫌なら無理は言わない」
「うん……わたしも、ごめん。ありがと」
のそりと顔を上げると、ハナはふわりとした顔で笑った。
わたしは上手く笑えなかったけれど、もう、下は向かなかった。