僕は何度でも、きみに初めての恋をする。
わたしはすごく変な顔をしていたに違いない。
真っ赤で、狐につままれたみたいな、自分でなんて到底見られないような顔。
それなのにハナは、やっぱり綺麗に、わたしとは全然違う顔で、わたしを見るんだ。
「セイちゃん。泣きたいときも、泣きたくないときも、きみがひとりなら、そのときは迷わず、俺のところへおいで」
ハナはそっと目を細めて、それからわたしの両手を握り、ちゅ、とおでこにキスをした。
「俺が側に居てあげる」
ゆっくりと離れる手。
わたしは小さく頷いて、一歩、後ろに下がった。
ハナは微笑んだまま「気を付けて」と言って、わたしはそれにまた頷いて、踵を返した。
背中を向けるのは、いつもわたしからだ。
一度だけ途中で振り返ったことがあるけれど、わたしが遠くまで行っても、まだハナは見送ってくれていた。
思えば、ずっと見ていてくれるのも、早く帰そうとするのも、わたしをひとりで帰らせることに対する、ハナの精一杯の心配りだったのかもしれない。
今日は振り返らなかった。
息が切れて足がもつれそうになるまで、ずっと走って帰った。
しばらくしたら自然に足が止まって、それからはゆっくりと歩いたけれど、体力が戻っても、夜風で冷まされても、いつまで経っても、体は熱いままで、心臓の音は、世界中に響き渡りそうだった。