僕は何度でも、きみに初めての恋をする。
携帯をしまってまた歩きだす。人の波の中へ、逆らわずに乗っていく。
土曜日の駅前の大通りはいつにも増した賑わいで、よそ見をしているとすぐに誰かとぶつかってしまいそうになった。
誰もが、お洒落が売りの商店街でお買い物を楽しみ中で、ショーウィンドウに並ぶマネキンや小物を足を止めつつ眺めている。
その中に紛れて、ときどき隙間をぬって、わたしはなるべく道の端っこを歩きながら、早く公園へ続く小路へ抜けたいと少し早足になって進んでいた。
今日は、どれくらい待つだろうかと。
無意識に足を動かしながら、そんなことを考える。
まともに会う約束すらしていないわたしたちが、集まる時間なんて決めているわけもない。
学校帰りと決まっている平日はともかくとしても、1日中という長い時間がある休みの日には、ハナが来るまで随分と待たされることも多かった。
もちろん、逆に待たせてしまうこともあったから文句を言ったことはない。
それに、わたしはハナを待っているひとりの時間も、実はけっこう好きだった。
人混みの中、ようやく辿り着いたいつもの小路への曲がり角。
そこを行こうとしたところで、ふいに。
「セイちゃん」
わたしを呼ぶ声が聞こえた。
聞き慣れたような、聞き慣れないような。よく聞いているものに似ているけれど、それよりも少し低い声。
振り返ると、ハナのお兄さんがそこに居た。
向こうも、ここでわたしと会ったことに驚いているみたいで少し目を見開いていたけれど、そのうちふわりと、ハナに似た柔らかい笑顔を見せた。