僕は何度でも、きみに初めての恋をする。


駅のすぐ近くにあるオシャレなカフェのテラス席。

ここのお店のことは前から知っていたけれど、OLさんや大学生のお客さんばかりで、高校生のわたしが入るのはちょっと気が引けて今まで来たことはなかった。


「おごるよ。好きなもの注文して」

「じゃあ……ミルクティーを、お願いします」

「それだけでいいの? ケーキもあるよ」

「大丈夫、です」


斜め前に座るハナのお兄さんを、上目で覗きながら答える。

お兄さんはふっと微笑んで、わたしのミルクティーと自分用のカプチーノ、それからミルフィーユをふたつ頼んだ。


お兄さんは、通っている大学へ行く途中だったらしい。

偶然わたしを見かけて(向こうは写真で何度もわたしを見ていて、顔はばっちり憶えていたとのこと)つい名前を呼んだみたいだった。


『ちょっと、話せる?』


ここでお兄さんに会ったこともそうだけど、そう言われたこともわたしには思いがけなくて、驚いた。

一瞬、公園に居るかもしれないハナのことを考えたけど、誘いを断ることもできずに、お兄さんとふたりで近くのこのカフェに入った。



「ハナに会いに行くところだった?」


注文が届くまでの間、手持無沙汰で道を行く人の流れを見ていたとき、お兄さんにそう訊かれた。

一応こくりと頷いたけれど、お兄さんも本当は訊くまでもなく、その答えはわかっていたみたいだ。


「ハナのことは気にしなくていいよ。あいつ、今日は公園に行くの結構遅いだろうから」

「……なにかあるんですか?」

「ん、病院。月イチでね、定期的に行ってんの」


お兄さんは人差し指でこつこつと自分のこめかみをつつくと、少しだけ、眉を下げた。

微笑んではいたけれど、楽しそうな顔には見えなかった。
< 114 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop