僕は何度でも、きみに初めての恋をする。
◇
派手すぎない花柄のワンピースは、わたしの唯一のとっておきの服だった。
別に、特別な日でもないのになんとなくそれを着て、靴もお気に入りのパンプスを合わせた。
「いってきます」
そうして家を出る。
行く先なんて、ひとつしかなかった。
何度も自転車通学に変えようかとか、休みの日には原付で行こうかとか考えたりもした。
それでも近くはない距離をいつも歩いて向かうのは、きみに付き合わされるデートと言う名の散歩をちゃんと隣で歩くためだ。
それにきみに会うために掛けるこの長い時間が、なんだかんだで結構好きだったりするのも、めんどくさい手段を取る理由の、ひとつだったりする。
知らなかった街も、最近じゃ見慣れたようになってきた。
よく見る珍しい名前の表札、顔見知りになった猫。
電車の駅の周りには、新興住宅地の建設に合わせて開発された商店街。
メインの大通りはオシャレさが売りの、若者に人気のお店が揃い、平日は近くの職場のサラリーマンやOLの姿もよく見かける。
だけどメイン通りを少し抜けると、そこは昔からの静かな住宅街が広がっている。
丘陵に沿って上へのぼっていくいくつもの小路。その脇に段々と建つ民家や商店。歩く野良猫。
そしてその丘陵地の、下のほうに当たる場所に、噴水のある公園はあった。
噴水と言っても、実際に水を噴いているところは見たことがない。いつも、下のほうに葉っぱの浮いた綺麗じゃない水がぶよぶよ溜まっているだけだ。
聞くところによると、真夏にときどき役目を果たすことがあるらしい。
ぜひにもそのときは見てみたいと思うけど、水はちゃんと新しいものに変えてくれているのか、それだけは不安だ。
噴水の広場よりも奥へ行くと、敷かれていた石畳がなくなって芝生が生えそろう場所に出る。
そこには遊具もベンチも池も、公園らしいものは何もなく、代わりに小さな丘がぽつんとつくられていた。
約束をしないわたしたちが、毎日出会う場所はここ。
そうして今日も、また、この場所できみを見つける。