僕は何度でも、きみに初めての恋をする。
「ねえセイちゃん」
ハナが呼ぶ。ハッとして、でも咄嗟に答えることができなかった。
ハナは真っ直ぐ前を向いたままだった。わたしを見ないままで、どこか遠くを見つめていた。
「セイちゃんが俺に側に居て欲しいと思うとき、俺はいつでも、きみの側に居るよ」
唐突にそんなことを言って、「でも」と続けたところで、ハナの目が一度だけこっちを見た。
一瞬合った視線の中で、ハナはちょっとだけ笑って、それからまた、前を向く。
……何を、言い出すのか。突然何を、言おうとしているのか。
「でもね、もしもきみが俺のことを嫌になったら、そのときは構わずに、離れていっていいからね」
笑顔が。笑いたくて笑っているんじゃないんだと、わかった。
いつだって誰より綺麗に笑うきみの、いつもの顔と全然違うから。
「なんで……」
なんでそんな顔をするのかわからない。
なんできみが、そんなことを言うのか。
でも。
「…………」
でも、きっとたくさん考えて言った言葉。
自分の中に積もりに積もったいろんなこと、必死に考えて、ハナはわたしにそう言うんだろう。
離れていっていいからと。
どれだけ一緒に居たって心の中まで知ることはできなくて、わたしはきみが何を考えているのか、知りたくても、知れないけれど。
「……わかった」
ぎゅ、と隣を歩いていたハナの手を握った。ハナは少し驚いた顔をして、指先で、わたしの手を握り返す。
「わかったよ。でもその代わり、もしもハナがわたしのことを嫌になっても、わたし絶対、離れていかないから」
わたしはきみが何を必死に考えているかわからないんだ。
きみはわたしの心に寄り添ってくれるけど、それすらできないわたしはもう、仕方がないから、自分の心の思うままに行くしかない。