僕は何度でも、きみに初めての恋をする。
─Ⅸ─ A Queen of the Night
「星、ちょっと手伝ってー!」
1階から声が聞こえて、慌てて下に降りていった。
もう出掛けようとしてたのに、とブラウスのボタンを留めつつ、リビングのお母さんのところへ向かう。
リビングは随分散らかっていた。
物が散乱しているわけじゃなく、そこかしこに段ボール箱が置かれているからだ。
「何を手伝う?」
「そこの箱みっつ、玄関のところに置いといてー」
「それくらい自分でやってよ。わたしもう出掛けるのに」
「だって重いのよ。お母さん腰痛めちゃうから」
「もー」
抱えると、その段ボール箱は本当に何入ってんだってくらいに重かった。
これじゃわたしも腰痛めるぞ。
呆れながら、必死で3個の重たい箱を玄関まで運んでいく。
明日が、お母さんが家を出る日だった。
隣の市のアパートへの引っ越しだ。近くで働く場所ももう決まっているという。
わたしはやっぱり、お父さんとここに住むことに決めた。
お父さんの一人暮らしは心配だったし、十数年ぶりに仕事を始めるお母さんの負担にもなりたくなかったからだ。
「いつでも遊びにおいでね。ハナくんも、一緒にね」
お父さんと居る、とわたしが伝えたとき、お母さんはそう言ってくれた。
少し寂しそうな顔をしていたのが辛かったけれど、これがまた新しい始まりだと思えば我慢もできた。
「置いておいたよ。わたしもう行くね」
「うん。ハナくんによろしくね」
「はーい。いってきまーす」
いってらっしゃい、という声を背中に受けて、少し重たいカバンを背負い、家を出た。