僕は何度でも、きみに初めての恋をする。

「じゃあ俺も帰ろ」

「家、近いの?」

「ん、そんなに遠くないよ。セイちゃんは?」

「……わたしも、遠くない」


嘘だ。結構距離はあるんだけど、送ってく、なんて言いだしたら困るから。

ハナが「そっか」と呟いて、長いカメラの紐を斜めにして肩に掛ける。


「今日はありがとう。気を付けてね」

「うん」

「変なおじさんについてっちゃだめだよ」

「ついてかないって」

「横断歩道は信号を見て渡ってね」

「わかってるって。じゃあね」


チカチカと光り出す街灯。

太陽よりもずっと眩しいそれを目指して、視線を地面に落としながら、坂道の芝生をしくしくと踏んだ。


「セイちゃん」


背中から聞こえた声。


「ねえ、明日も会えるかな」


最後に一度だけ、振り返る。


「さあ」


それだけを答えた。

ロクな返事じゃなかったけど、ハナは嬉しそうに笑っていた。


わたしは遠くて暗い道のりを、少し遅いペースで歩いて帰った。

街灯の減ったところで顔を上げてみたら、すっかり暗くなった空に、小さいけど真っ白な星が、いくつかそこに浮かんでいた。


そっと手を伸ばしてみる。掴めるはずもない。

宙で、ぎゅっと手を握って、それから腕を下ろした。掴みそこなった小さな星は、今もそこで、光っていた。



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