僕は何度でも、きみに初めての恋をする。
「……できません。わたしには、ハナを、助けられない」
目を見開くお兄さんを、わたしは息を短く吸って見上げた。
視界にはいつもの丘と、楓の木。そしてオレンジと紺の混ざる、狭い不透明な空。
「わたしはハナを、助けてあげられるような人間じゃない。ハナの気持ちにも気付けなかったし、今だって、何をすればハナが心から笑ってくれるのかもわからない」
きみは簡単に、わたしの心を正直にしてくれたのに。
わたしにはそれがどんなことより難しい。
優しい人であれたらいいけど、わたしはいつも結局自分勝手だし。
きみに笑って欲しいのは、きみが笑ってくれたらわたしが嬉しいからで。
そのうえいつだってその方法を探してあたふたしているだけで、きみがわたしの知らないところで抱えていたものにすら気づかない。
こんなわたしのこと、きみは笑う?
馬鹿にされても、笑ってくれるならそれでいいけど。でも、ハナ、きみはそんな風に、わたしを笑ったりはしないんだよね。
笑い者にすらなれないわたしは、ほんとに何をしたらいいかわかんないよ。
だけど、だけどね。
ひとつだけ決めてたことがある。
「それでもわたし、側に居る。ハナが泣きたくても泣けないときは側に居るって、それから、笑いたいときに笑って、泣きたいときに泣けるようになったときも、わたしはハナの側に居るって。決めてたんです」
きっと、わたしはまだ暗闇を照らす光にはなれない。
だけどその代わりに、きみがしてくれたように、光が見える場所へ、暗いところに沈んだきみを引っ張り上げてあげるから。
上を向いてと。
確かにあると。
真っ暗だと思ったそこには、小さな星が浮かんでいると。
教えてあげるために。
きみがわたしに教えてくれたように。
今度はわたしが、暗闇の中うつむくきみへ。
「わたし、行きますね」
足を踏み出して通り過ぎたわたしを、お兄さんは追いかけて来なかった。
きっと振り向きもしなかった。
誰よりも今すぐ走り出したいはずの人は、それでも。わたしに言葉だけを預けて。
「ハナを、よろしくね」
背中越しに声だけを聞いた。
振り向かずに、わたしは真っ直ぐに、自分の行きたいところへ走った。