僕は何度でも、きみに初めての恋をする。
繰り返し新しくなる世界。きらきらした宝物であふれていたきみの世界。
そこをひとりで歩きながら、ハナはいろんなものを見つけて、そして忘れていったけれど。
どんどん狭くなっていく世界が、とうとう、自分の立つ場所だけしか残らなくなってしまった。
とても小さな陽だまり。まわりの消えた、自分ひとりだけの場所。
きみの見ていた世界に置いて行かれて、きみだけが、その場所に取り残される。
「ハナ」
それはどれだけ怖いことかな。わたしにはわからないよ。
でもひとつだけ、きみと同じ思いを持っている。わたしも同じ。
いつまでも大切に抱えていたいものを、この綺麗なだけじゃない世界に、見つけてしまった。
「ねえハナ、だったら」
残りの階段をのぼって行く。
静かな足音が空に響く。
夕暮れももうすぐ、長い夜に変わる。
「わたしと一緒に、誰も知らない場所へ行こうか」
きみの目の前で、きみに目線を合わせた。
目を見開いた顔に、きっとあのときのわたしも同じ顔をしていたんだなあと、少しだけ可笑しくなる。
「ハナが望むなら連れて行ってあげるよ。他の全部をここに置いて、わたしたちだけで、他の誰も居ないところへ」
ぎゅっとカーディガンを掴む手に、わたしの手を重ねた。
こんなことしても伝わるのは温もりだけだと知っている。
でも、離しはしない。
「……俺、は」
もし、ハナがここで頷いたら。本当にきみを連れてふたりで遠くどこかへ行こう。
誰に馬鹿だと言われても、子どもの幼稚な考えだと笑われても。
きみを連れて、ふたりきりで、きみの行きたいところへ。
どこまでもずっと。
誰も居ないところへ。たったふたりだけの場所へ。
「…………」
でも、ハナは、答えなかった。
あの日のわたしと同じだった。
あのときわたしは、真剣なきみの瞳に何も言うことができなくて。
答えなんて決まっていると思っていたのに、それは喉から出て行かなくて、本当に決めていた答えは、自分が思っていたものと違った。
「……っぷ」
「……セイちゃん?」
「ごめん、なんでもない。ねえ、ハナは、憶えてないかもしれないけど」
わたしの中には鮮やかに残ってるんだ。
きみがくれた、たくさんの言葉。