僕は何度でも、きみに初めての恋をする。
前は、こんなふうじゃなかったんだけど。
ごはんはいつも一緒に食べていたし、会話だって尽きることがなかった。
お母さんもお父さんも大きな声で笑うし、それを見るとわたしも嬉しくて笑った。
お母さんは、ちょっと髪の毛に白髪が多くなった。
お父さんは、帰ってくるのが遅くなった。
わたしは家に帰るのが嫌で、でもどこかへ行くこともできなくて。いつも逃げるみたいにして部屋に籠もって、ベッドの中でうずくまっていた。
そのうち、いつもみたいに耳障りな叫び声が聞こえてきた。
扉を閉めても毛布を被っても消えないから、丸まって、できるだけ小さくなって、それからきつく、痛いくらいにくちびるを噛んだ。
ああ、うっとうしい。何もかもこんなふうなら、全部消えちゃえばいいのに。
全部全部、いらない思いは全部。
ゴミみたいにして綺麗さっぱり、消えてなくなっちゃえばいいのに。
『きみは綺麗だよ』
ドクンと、小さく心臓が鳴った。
今日聞いた、聞き慣れない声が、頭の中に響いてぐるぐる渦巻く。
「…………」
いつもと変わらない吐き気がするような思いの他に、なんだか違うものもずっと胸につかえていた。
それは決して心地良いものじゃなくて、でも、一緒に感じている不快なものとも全然違って。
言葉にするのは難しいけど、どうしてか、頭の奥の方から涙が溢れてきそうになる、そういう感覚。
不快じゃない、嫌じゃない、気持ち悪くない。
でもその気持ちがあるせいで、いつも以上に心の奥が、苦しくなっていたんだ。