僕は何度でも、きみに初めての恋をする。
「セイちゃん」
ハナが呼ぶ。
まだ、数えるほどしか呼ばれたことのない声だ。
呼ばれ慣れてなんかいるわけなくて、それなのに、きみは、まるで何度も呼び合ったものみたいに、わたしの名前を声に出す。
「ねえ、セイちゃん」
まだ振り向きたくはなかったけれど、その声につられてしまった。
顔を上げた先にはやっぱり、わたしの気持ちなんてちっとも知らない顔のハナがいて。
「デートしよう」
「は?」
「さ、行こう」
「え!?」
あまりの唐突さに恥ずかしさも吹き飛んだ。
いきなり何、と思いはしても訊ねる暇すらなくて、ハナはわたしの腕を強くひっぱり丘を下りていく。
「ちょ、ちょっとハナ! どこ行くの!?」
「デートだよ。どこに行くかは……決めてないけど」
「デ、デートって……」
「もしかして、これから何か予定あった?」
振り返って、そう訊ねて、でも足はもちろん止めないままだ。
足元を見ずに器用に坂道を下りるハナと違い、わたしは下を見つつでも滑りそうになりながら坂を進む。
「な、ないけど」
「じゃあ決まり。まだ時間も早いし、気の済むまでいろんなとこ行こう」
「気の済むまでって……誰の?」
「もちろん、俺の」
そう言って、今すぐ飛び跳ねでもしそうなくらいに軽やかな背中に手を引かれ。
力が抜けて転びかけたところをなんとか持ちこたえながら、すっかり晴れた空を見上げてみる。
ハナのせいで、呆れすぎて頭がおかしくなりそうだ。
だけど、呆れているのに抗おうとしない自分に、なによりも、呆れかえっていたんだけれど。