僕は何度でも、きみに初めての恋をする。
重い足を引きずって、猫の隣に座り込んだ。
猫は、あれほど素早く逃げ回っていたくせに、よほどこの場所がお気に入りで落ち着くのか、地面にへばりついたまま動こうとはしない。
時々気だるそうにわたしを見ては「ガー」と可愛くない声を上げている。
「あは、いい感じ。セイちゃんと猫くん、そっくり」
「それは罵りと受け取っていいのかな」
家に挟まれた日の当たらない場所から、ハナは妙に楽しそうにシャッターを切っていた。
わたしはもう、表情を作るのもレンズを見るのも撮るのをやめさせるのも億劫で、ぼうっと視点の定まらない目でハナを眺めていたんだけれど。
ふと、猫が寝ているのと反対側、開けている方にまだ道が続いているのに気づいて。
ここは行き止まりじゃなかったんだと思いながら、あんまりはっきりしない思考のままで横を向いた。
「…………」
向いて、息を呑んだ。
──その瞬間、ザアッと、風が吹き抜けたような気がした。
強くなんて吹いてなかったけれど、それでも目を細めてしまいそうなくらいに、正面から吹き抜けた風。
「……っ、」
光が、何もかもを鮮やかに映し出していた。
空、地平線、山々と、街。
「ハ、ハナ!!」
「ん?」
急いで呼んだ。
目なんか離せなかったから、必死で手だけをぶんぶん振って。
ハナが隣にやってくる。
そしてわたしと同じものを目に映して、同じように、言葉をなくした。