僕は何度でも、きみに初めての恋をする。
小さな案内人に連れて来られたのは、普段は滅多に来ない街の東の駅の前。
げ、と思ったときにはもう遅かった。知らない道ばかり来たからまったく気づかなかったけど、まさかこんなに遠くまで来てしまっていたなんて。
この街で一番新しいその駅のそばは、新興住宅地の建設に併せて造られたお洒落な商店街が売りの賑やかで活気のある場所だ。
車も人も多い大通り。いろんな物や音で溢れ返る場所。それに沿って歩いてみるけれど、なんとなく、居心地の悪さに足の進みが遅くなる。
帰宅ラッシュの騒がしい時間帯だ。どんどん人波は増していく。どうしよう、と思ったときに、ふと目を向けた先で脇道へ折れるしっぽを見つけて、慌ててそれを追いかけた。
その道の先は、緩やかな坂になっていた。進むたび、だんだんと無くなっていく音に、ざわざわしていた胸の奥がゆっくりと落ち着いていく。
前を行く猫は、気ままにのんびりと歩いている。ぼーっと、少しずつ色を変える空を見上げながら付いて行けば、広い、噴水のある静かな公園に辿り着いた。
「ニャア」
噴水は、下のほうにあんまり綺麗じゃない水が溜まっているだけで水を噴いてはいなかった。枯れかけて落ちた葉っぱが、ふよふよと円形の水の中を、つまらなそうに泳いでいるだけ。
お役目御免、とでも言うように走り去る猫のお尻を見送りながら、わたしは噴水のフチに座って疲れた足を休ませた。
思った以上に歩いてしまった。でも、いい、時間つぶしにはなったと思う。
息を吐いて、それから、頭の上の空を見上げてみる。
いつの間にか色は不思議なグラデーションカラーだ。オレンジと、水色と、藍色の変な組み合わせ。
そのうちあっという間に真っ暗になって、今日が終わって明日になるんだろう。
変わらない毎日。
勝手に過ぎていく毎日。
何もない毎日。
意味のない毎日。
嫌なことだけが、積み重なって、繋がっていく。