朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
木刀を見ると、血が騒いだ。


毎日のように稽古していた頃が懐かしい。


柚は木刀に手を触れようとして、寸前でピタリと手が止まった。


殺気を感じ、後ろを振り向くと先程まではいなかったはずの広場の真ん中に、鞘から剣を抜いた男が一人立っていた。


音も気配もしなかったので、いつの間に、と柚は思った。


男はどっしりと構えるでもなく、ゆらめくように立っていて、顔にこれといった特徴がなかった。


挨拶程度に話をした程度ではすぐに忘れてしまうような存在感のない男である。


そんな男が、柚を凝視するように睨みつけながら、白い刃を剥きだしにして立っている。


男と目が合うと、背中がゾクっと寒気がした。


柚には分かる、この男には生気がない。


つまり、生きている人間ではないということだ。


柚は思わず木刀を一本掴んだ。


声を上げることができない。


手に嫌な汗がにじみ出ていた。
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