朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
いつも冷たい印象の受ける瞳が下がり、慈愛に満ちた貴次の笑顔を見た時、柚は思わずドキリとした。


元々貴次は爽やかで整った顔立ちをしているけれど、だからといってかっこいいなと見惚れたり意識したりすることはなかった。


でも、稚夜に向ける笑顔は心からの笑顔で、そんな飾り気のない顔をする貴次は、素直に素敵だなと思った。


 稚夜が勉強の時間になったのでいなくなり、再び二人きりになると、柚はこれみよがしに貴次に距離を置いた。


「私は……もう帰る!」


 ぶっきら棒に言い放ち、帰る準備をしていると、貴次が愉快そうに笑った。


柚が明らかに意識しているのが分かったからである。


「まだ時間はあるでしょう。もう少し稽古を続けてもいいのでは?」


 それは柚にとって甘い誘惑だった。


十分身体を動かしてはいたが、貴次の剣の指導は的確で実戦的だったので、新たに勉強になることが多く、いくらでも稽古を受けていたい気分にさせられた。
< 129 / 342 >

この作品をシェア

pagetop