朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
「状況が予想よりも逼迫していなければ、数日程度で帰ってこれると思う。

怪しい動きをしているのは西の蘇我氏の勢力で、そこを鎮めればまず安心だろう。

ここから蘇我氏の陣地までそう遠くないし、長い旅にはならぬ」


「そうか……」


 柚は項垂れたまま相槌を打った。


暁は柚を見つめ、項にかけていた手に力を込めると、柚を胸に抱き入れた。


「地方豪族に怪しい動きがあると聞いたとき、真っ先に心配したのが柚のことであった。

今はほとんど物の怪の動きがないとはいえ、柚を残して宮から離れることを懸念していたのだ。

しかし、このまま放っておくわけにもいかぬ。

不安だと思うが、しばし耐えてくれ」


「それは、いいんだけど……」


 柚は暁の胸の中に抱きしめられながら、自分が考えていたのは、物の怪のことではなく、暁がいなくなることの寂しさだと思った。


寂しさだけではない、戦いになるかもしれない場所に暁が赴くことも不安だった。


暁に何かあったらと思うと、胸がぎゅっと締め付けられる。
< 139 / 342 >

この作品をシェア

pagetop