朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
哀愁を帯びながら月を見上げていたのは、柚のことを想っていたからなのか。


貴次は妙に納得した気分だった。


「満月の日、霞がかった朧月夜が出たら……」


 貴次は途中まで言いかけて言葉を噤んだ。


「朧月夜が出たら?」


 暁は途中で止まった貴次の言葉の続きが気になって聞き返した。


しかし貴次はニコリと笑って首を横に振った。


「いえ、何でもありません。朧月夜が出たら綺麗でしょうなあ」


「突然風情ある物言いをし出すとは。おかしなことを言う奴だ」


 暁は気に留める様子もなく笑った。


その笑顔に貴次は余計なことを言わなくて良かったと思った。


 朧月夜になると、物の怪の力が強まることを貴次は知っていた。


しかし、ただでさえ心配している暁に、不安を重ねるようなことはしたくなかった。


「それでは私はあちらの方にいますから、何かありましたら遠慮なくすぐにお呼びください」
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