朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
「甲斐は、弱虫などではありませぬ。

この大変な時期に一人だけ帰ることを気にしておりました。

甲斐は、病気の母を見舞うために暇を請うたのです。

物の怪から逃げようとしていたわけではありません」


「そうなのかもしれぬ。だが、あやつの行動のせいで次々と宮から逃げ出そうとする者が出たのは事実だ」


「物の怪が怖いのは仕方のないことでしょう。無理に留めておこうとするのが間違いなのです」


 暁が帝を睨みつけて言うと、皇后が鋭い眼差しで暁を一喝した。


「これ、暁! 帝に向かってなんと失礼な口ぶりを!」


 しかし暁は、皇后の言葉に耳を傾けず、なお帝を睨みつけた。


すると皇后の隣に座っていた皇女が話に入ってきた。


「暁は平城宮で働く者達のことなど考えなくていいのです。わらわ達を物の怪から守るために力を使い続けなさい」


「しかし姉上、これ以上宮から犠牲者を出すのは……。

父上の御力でも防ぎきれない物の怪ならば、私も宮の者達を守るべく力を分散させないと」
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