朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
以前、平城宮で出会った式神とは全然違う。


おどろおどろしい気配に包まれていた。


柚は恐怖で頭が真っ白になった。


逃げ出したいのに、膝が震えて一歩も動くことができない。


幽霊は何度か見たことがあるけれど、こんなに恐ろしいものに出会ったのは初めてだった。


(喰われる!)


 柚はそう思った。


あの黒い霧の塊に、魂を吸い取られてしまう。


物の怪を目の前にして、柚は全くの無力だった。


貴次との稽古も、剣道の腕前も、物の怪の前では役に立たない。


 まがまがしい強烈な妖気が柚の身体を包み込もうとしていた。


(もう駄目だ……)


 柚は力が入らなくなって膝から崩れ落ちた。


最後に頭に浮かんだのは、暁の顔だった。


もう一回、暁に会いたかったな……。


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