朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
そう思った時、目の前に暁が現れたように見えた。


頭が朦朧としていて顔がよく見えないが、柚の前に突如として現れた人物は結印を結び呪文を唱えた。


「急急如律令」


 男が静かに言い放つと、黒い霧の形をした物の怪は、後ずさりするように後退していき、塀にすっと消えていった。


 物の怪がいなくなると、身体が軽くなり、空気を思い切り吸い込んだ。


朦朧としていた頭もだんだんと冴えてくる。


「大丈夫ですか!? 姉さま!」


 姉さまと呼ばれて、柚は一気に覚醒した。


暁のように見えていた人物は、小さな稚夜だった。


「稚夜? どうしてここに……」


「暦が今夜は危険だと教えてくれたのです。

渾天儀(こんてんぎ)で占っていたら、物の怪は今夜姉さまを襲うと出たので、急いで駆けつけました。

間にあって良かった」
< 163 / 342 >

この作品をシェア

pagetop