朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
「最後に暁の顔が見たかったなって」


 切なげに無理やり笑顔を作る柚の顔を、朱雀は黙って見つめた。


そして、ため息を零すように言葉を吐いた。


「それくらいならできないことはない。いいだろう、見せてやる」


 朱雀は空中に指先で大きな円を描いた。


するとその形通りの鏡が空中に出現し、鏡に映っているのは現在の暁の様子だった。


「暁っ!」


 柚は思わず叫んで鏡に近付いた。


しかし、柚の声は暁には聞こえないようだった。


 雨が降る森の中で膝をついている暁は、死んだ柚を膝に抱えながら慟哭していた。


激しい雨に打たれながら涙を流し、もう息を吹き返さない柚のことを愛おしそうに抱きしめている。


柚はその姿を見て胸を打たれた。


涙が勝手に溢れ出て、「ごめん、ごめん」と心の中で謝った。
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