朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
二人が並んで歩くと否応なしに目立った。


道行く女性たちから向けられる熱い視線に、男は慣れた様子で適度に応えながら進んでいく。


柚は隣でその様子を見ていて、なんだかムッとした釈然としない思いが胸の中で疼いていた。


柚の目から見ても、男はとても魅力的で、整った横顔をつい吸い込まれるように見入ってしまうので、女たちの気持ちはなんとなく分かる。


分かるからこそ、分かってしまう自分が嫌だった。


なぜかとても悔しい気持ちになった。


「なあ、どこに行くんだよ。腹減ったんだけど」


 つい見惚れてしまった自分が悔しくて、柚はわざと男っぽい口調で言った。


私はお前なんかに全く興味がないと自分と男に言い聞かせるようでもあった。


「まあまあ慌てるな。飯は飛んで逃げたりなどせぬ」


 飄々とした様子に、本当に食事を食べさせてくれるのか不安がよぎったが、黙ってついて行く他ない。


腹が減ったと主張するお腹と戦いながら、柚は大事なことを思い出した。


「そういえば、あんたの名前聞いてない」


「私の名前?」


「そう、呼ぶ時困るだろ。教えてくれよ」


 柚はニコニコしながら聞いた。


名前も知らない男について行くのもどうかと思うが、柚は本来人見知りしない性格だったので、特にその点については気にしていないらしい。


名前を聞けば皆友達というお気楽な考えだった。
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