朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
「婚礼の儀も近いゆえ、本腰を入れませんと恥をかくのは柚様でいらっしゃいますよ」


 如月は努めて優しく言った。しかし柚はう~んと唸って、


「なあ、お手付きってどういう意味だ?」


 と如月の言葉を全く無視して聞いてきた。


 人の話を聞けって言っているそばから、と如月はカチンときたが、如月は自分の気持ちを一端押し止めて、柚の問いに答えた。


「お手付きとは、帝の寵愛を一度受けたことがある女性のことを言います。

しかしながら、お手付きという名称は下品な言葉と思われていますから、品位の高い方、すなわち柚様のような帝の妃になられる女性が使う言葉ではございません」


「寵愛……? じゃあ、あの女性(ひと)は暁の元恋人?」


 柚は心臓がバクバクしてきた。


暁に恋人がいたなんて思ってもみなかったからである。


ショックを受けている様子の柚を見て、如月はそれは杞憂だと言いたげに笑った。


「ご安心くださいませ。

帝に恋人はいらっしゃいませんでした。

帝にはお手付きと呼ばれる一度だけお相手した女性が沢山いらっしゃいますが、どの御方とも一夜の軽い戯(たわむ)れで終わられました。

柚様のように、長期に渡って夜と共に過ごす女性は一人もいらっしゃいません」
< 261 / 342 >

この作品をシェア

pagetop