朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
「ほう、これを柚が」


 暁は満面の笑みを浮かべた。


「どれ、早速食べてみるか」


 暁が匙で寒天を救い上げると、由良はゴクリと喉を鳴らし、食い入るように寒天を見つめた。


「お待ちください!」


 あと少しで寒天が暁の口に入る所で、役人がそれを制した。


「その食べ物はまだ毒見が終わっておりません。一端、引き取らせていただきます」


 その言葉に由良は顔が真っ青になった。


しかし由良の様子に気付く者はいない。


役人が陶器を暁から取り上げようとすると、暁はむきになって陶器を抱えた。


「駄目だ。これは柚が余のために作ってくれたものだ。誰にも食べさせぬ」


「またそんな子供みたいなことをおっしゃられて……」


「柚の愛は余が全て独り占めするのだ。どうだ、羨ましいだろう」


「そういうことではなくてですね」


 呆れた様子の役人を尻目に、暁は寒天を頬張った。


由良の動悸が激しくなる。しかし由良は努めて平静を装った。


「うっ」


 噛んだ瞬間、口中に苦い風味が広がり、暁は顔を青ざめた。


(……まずい)
< 269 / 342 >

この作品をシェア

pagetop