朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
「ここまでで良い。お前はもう下がれ!」


 欲望を押し止めるので必死なので、暁の言葉は苛立ったきつい声になっていた。


突然下がれと言われた采女は、自分が何か粗相をしてしまったのだと思って涙目になった。


けれど、帝に「なぜですか?」とか「でも……」とか何かものを言うことすら緊張でできないので、黙って火のついた燭台を震える手で帝に差し出した。


「火はお主が持っておれ。火がなければ暗くて帰れないであろう」


 采女は目を見開いてぶんぶんと首を振った。


それを言うなら、火がなくて困るのは帝も一緒である。


自分のために帝に不便をかけるわけにはいかない。


「余は大丈夫だ。何度も通った道だ。目を瞑ってでも行くことができる。急に下がれと言ってすまぬな。気を付けて帰れよ」


 優しい言葉に、采女は泣きそうになった。


立ち尽くす采女の横を通り過ぎ、暁はスタスタと歩いていった。


采女は追いかけて足元を照らしてあげたいと強く思ったが、下がれと言われたので、その気持ちをぐっと堪えて歩き去っていく暁の後ろ姿をいつまでも見つめていた。

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