朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
「おお、すまぬ。怪我はないか」


 暁が欲望を頭から振り払い、上体を起こして女性から離れようとすると、下になっていた女性がぐいと暁の身体を引き寄せた。


 再び組み敷く体勢となった暁。


驚いて女性の顔を見ると、見覚えのある顔がそこにはあった。


女性は笑みを浮かべ、誘うような官能的な瞳を暁に向けた。


「お久しぶりでございます。斎暁様」


 その声に、暁の記憶が一気に戻る。


「お前は……昇香」


「覚えていてくださったのですね」


 昇香は喜びに打ち震えた。


昇香は数多いるたった一夜の逢瀬の相手だったが、忘れるわけがないと暁は思った。


 暁は沢山の女性と関係を持ったが、うっかり子をもうけてしまわないように細心の注意を払っていた。


膣外射精はもちろん、避妊具(海綿でできたタンポンのようなもの)も使用していた。


それなのに子供ができたと騒ぎ立てた昇香に心底驚いたのである。


子供ができているわけがないと思っていたので、昇香が騒ぎ立てても放っておいた暁だったが、昇香の嘘が公に発覚するまで内心少しドキドキする日々を送っていた。


もしかしたら別の男との子供を自分の子供だと言い張るのではないかと思ったり、もしかしたら避妊が失敗していたのではないかとか、そんなことはないとは思いつつも、心のどこかで気に病んでいるところがあった。


 だから昇香の一件があってからは、身分を隠して女性と関係を持つなど、更に慎重になったのであった。
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