朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
「柚……」


 そこには声も上げずに立ち尽くす柚がいた。


暁と柚は真っ直ぐに視線を合わせた。


「覗きをするなんて、いい趣味していらっしゃるのね。見ての通り、わたくしと斎暁様は、今いい所なの。邪魔しないでもらえますこと?」


 昇香の言葉に柚はハッと我に返り、瞳を左右に揺らし後ずさった。


「柚っ! 違うのだ! これは……」


 柚は聞きたくないと言わんばかりに首をぶんぶん振り、目に涙をいっぱい溜めて叫んだ。


「暁なんて、大嫌いだ!」


 柚の言葉に、暁は衝撃を受け茫然自失となった。


そして柚は踵を返し走り去った。


「柚っ!」


 慌てて追いかけようとすると、昇香が暁の袖を掴んだ。


「あんな小娘の所になんて行かないでください!」


「離せ!」


 暁は昇香の手を躊躇いなく振り払った。


その勢いで昇香が再び倒れても、今度は気にも留めなかった。


それどころか暁は昇香に冷たい眼差しを向け、怒りの含んだ声で言った。


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