朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
昇香はただ、暁のことが好きだったのだ。


もう一度、自分を見つめてほしかったのだ。


あの慈しむような優しい瞳で。


 暁の愛が欲しかった。


暁の愛さえもらえれば、出世なんてどうでもいい。


暁が帝の地位を捨て、誰も自分たちのことを知らない所に行こうと言われたら、喜んでついて行くだろう。


それくらい、暁のことが好きだった。


 しかし、もう、この恋は実らない。


暁には好きな人がいて、自分のことは完全に嫌われてしまった。


「斎暁様っ斎暁さまぁ」


 人に弱っている所を見られるのが一番嫌いな昇香であったが、泣きながら大声で暁の名を呼んだ。


心が裂けて血が出るような悲痛な叫び声だったが、その声は誰の耳にも届かなかった。

 
< 282 / 342 >

この作品をシェア

pagetop