朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
出たとは幽霊のことである。


柚は大きな叫び声を上げて、先程暁に抱きついた力とは比にならないほどの強さで再び抱きついた。


毎日剣道で腕を振る練習をしていた柚である、本気で抱きつく腕の強さは普通の男よりも強い。


「いたたた…待て、柚、落ち着け。これは物の怪ではない」


 暁がどんなに宥めても、柚のパニックは治まらなかった。


むしろ、不気味な影が近付いてくる気配がして、ますます動揺し泣き叫ぶ勢いだった。


「柚、離せ。これでは戦えぬ」


 暁はなんとか柚を引き離して、太刀に手をかけたいが、柚は頑として離そうとしなかった。


そうこうしている間に不気味な影が差し迫ってくる。


不気味な影は複数に増え、暁と柚を取り囲む。


この暗闇の中、一斉に襲い掛かれたら、いくら腕に自信のある暁といえど厳しいものがある。


しかも、利き手にはどんなに引き剥がそうとしても、もの凄い力で縋り付いている柚がいる。


暁の焦りは頂点に達していた。


「くっ」
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