朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
「稚夜……、なんだか大人みたいなこと言うな。私よりよっぽど大人だ」


「そうでしょうか」


 稚夜は少し照れ臭そうに笑った。


その顔はまだ子供のようでもあり、人生の愁(うれ)いを経験した大人のような顔でもあった。


 こんなに短期間で成長した稚夜を見て感心する一方、貴次の死がもたらした影響に、柚は人知れず心を痛めた。

 稚夜とさよならをして、柚は一人部屋へと戻り、これからのことを考えていた。


毎晩暁は柚の部屋を訪れるが、柚は頑なに会おうとはしなかった。


暁の言い分すら聞こうとはしなかった。


 怒っている、というわけではない。


ただ、どんな顔で会ったらいいのか分からなかった。


暁の話を聞くのが怖かった。


避けていても、それは問題から逃げているだけで、何の解決にもならないということは分かっていた。


分かってはいたけれど、どうしようもできない感情がそこにはあった。


 できれば何も見なかったことにしたいとも思う。


しれっとした顔をして、何も見てないよと言って、何事もなかったかのように、その話には二度と触れないようにして、元通りになれたらいいのにとも思う。


話し合いもせず、暁の言い分も聞かず、ただなかったことにしたい。


それは逃げているだけだと分かっていても、聞きたくないのだ。
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