朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
けれど、逃げることすらできない現実があった。


ふとした拍子に、あの光景が頭に浮かんでくるのだ。


何がきっかけで、なども何もない。


ご飯を食べている時、寝る前、誰かと話している時でさえ、思い出してしまうのだ。


 あの光景を思い出すと、胸がぎゅっと締め付けられる。


思い出すだけではない。


抱き合うまでの二人のやりとりなどを想像してしまって、息ができなくなるほど苦しくなる。


 暁にキスを拒まれたことや、夜の訪れがなくなったこと。


それらの小さな不安が、あの出来事によって一つに繋がった。


暁は、昇香さんの元に行っていたんだ。だから私の所には来なくなったんだ。


私のことは、もう好きではないんだ。飽きてしまったんだ。


 もうすぐ結婚するのに。


あの日は私の所に来ると言っていたのに。あんな近くで昇香さんと抱き合っているなんて。


どうしてだよ、どうしてそんな思いやりのないことができるんだよ。


如月が言うように、こんなことで傷付くなんて、おかしいのかもしれない。


この世界では普通のこと。暁は帝なんだから。


倫理に背いた行為でもない。


これを受け入れられない私がいけないんだ。


暁と結婚するということはそういうことなんだ。
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