朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
「それはきっと、この部屋にたち込められたお香が原因でしょう。

お香は配分によっては身体を痺れさせ、頭を朦朧とすることができます。

そして部屋を暗闇にすれば、恐怖で幻覚を見てしまっても不思議ではありません」


「なるほどな。だが余は香りを嗅いでも全然平気だぞ」


「それは帝や我々は日々鍛えていますから。お香などでやられたりはしませんよ」


 柚も毎日剣道で鍛えているはずなのに、お香にやられていたらしく、貴次の言葉がグサリと刺さった。


「要は、都の物の怪の正体は宮の物の怪の名を語った人間の悪事だったというわけか。ところで攫った女たちはどこに行ったのだ」


 捕えた男に暁が聞くと、男は観念したかのようにぼそぼそと話した。


「唐に売ろうと思いまして。女たちは明日、舟に乗せて連れていく手筈でした」


「他国にだと!? 危なかった、海を越えられたら連れ戻すことは不可能だった」


 貴次は驚き、そして安堵した様子で言った。


「これにて一件落着だな」


 暁が両手を組み満足気に言ったので、柚は慌てて叫んだ。


「待てよ! さっきから暁が帝って呼ばれてるけど、帝って、皇帝のことか!?」


 暁は、思い出したように「ああ」と言い、全く悪びれるそぶりもなく言い放った。


「いかにも余は今上帝、斎暁(さいきょう)と申す」
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