朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
 柚は頭が真っ白になって、顔から血の気が引いていくのが分かった。


「私を騙してたのか!? 名前まで嘘をつくなんて!」


「騙していたわけではない。余に近しい者は、親しみを込めて余のことを暁と呼ぶ。柚は今後も余のことを暁と呼んでいいぞ」


 暁はにっこりと笑って言った。


どうやら隠していたことを悪いとは露ほどにも思っていないらしい。


「今さらそんなこと言われても、お前のことなんてもう信用できない!」


「おい女! 帝に向かってその口はなんだ! 無礼だぞ!」


 貴次は、柚に向かって怒り心頭といった様子で食いかかった。


すると暁は、右手で男の身体を制した。


「良いのだ、貴次。それに柚は朱雀の巫女。お前こそ言葉を慎め」


「朱雀の巫女……? この者が?」


 貴次は訝しむような瞳で柚を上から下まで眺め見た。


朱雀の巫女といわれて、柚本人も戸惑った。


確かに朱雀にも同じようなことを言われた覚えがあるが、柚は朱雀の巫女がなんなのかさえ分かっていないのだから、さっきから知らない名前で呼ばれているような居心地の悪さがあった。
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