朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
暗闇だけでも怖いのに、物の怪が出ると分かってる所を歩くなんて、想像しただけで気が遠のきそうだ。


それに柚には行くあてもない。


にっちもさっちもいかない状況に、ついに柚は大粒の涙を零した。


 扉を背にして暁の方を見ながら、ぼろぼろと泣き出す柚を見て、暁は大層慌てた。


寝台から飛び降り、柚の元に駆け寄っておろおろしている。


「ゆ、柚、どうした。なぜ泣く」


「うう~~~」


 柚は下を向きながら、涙を拭いもせずに泣き続けた。


わけのわからない世界に来て、いきなり結婚しろと言われ、外には世界で一番嫌いな物の怪が出るといい、初キスを奪われ、揚句の果てにその先までしなければいけない状況に立たされ、これまで必死に堪えてきたものが一気に溢れ出した。


 柚はめったなことでは泣かない子ではあったが、一端泣くと止まらなかった。


止め方が分からないのである。


子供のように大粒の涙を零す柚を見て、暁は二十二年間生きてきた中で一番うろたえた。


親が亡くなった時も、物の怪と直接対峙した時も、この時ほどうろたえはしなかった。


暁はどうしたら柚が泣き止んでくれるのか分からず、あたふたしながら、とりあえずそでの衣を使って柚の涙を拭き続けた。
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