朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
柚にとっては特別に意識しての行動ではなく、悩みがあるから側にいる信頼できる人の肩を借りただけなのであるが、暁はそれだけでいじけていた気持ちが吹き飛んだ。


「なあ、暁……。もしもさ、もしも……」


「うむ」


 普段懐かない子猫が、自分から甘えてきたような可愛さに、暁は今すぐ柚を抱きしめて押し倒したい気持ちと格闘していた。


でも、突然抱きしめたら、子猫は驚いて二度と甘えてこなくなるかもしれない。


理性と本能との戦いだった。


「もしも私が突然いなくなったら、どうする?」


 一人、己の欲望と戦っていた暁は、柚の言葉に一気に血の気が引いていった。


思わず柚の両肩を掴み、真正面から向き合う。


「嫌だ、絶対に嫌だ」


 あまりに暁が緊迫した表情で答えたので、柚は場を和ませるために笑った。


「もしもの話だよ」


「もしもでも、嫌だ」


 暁の真剣な言葉に、柚は少しだけ安堵した。


そう言ってくれるのを期待していたのかもしれない。


柚は嬉しかった。
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