エンドレス・ツール
「りー、ちょっと座ってて」


翔さんがあたしを椅子に座らせる。


「水貰ってくるから。倒れないでよ」


そう言って頭をぽんぽんしてくれる。


どんだけ優しいんだ、翔さん。


あたしは頭の重さに耐えきれずにテーブルに突っ伏した。


痛い……。


しかも全身が熱い。


……あ、そうだ。兄貴に連絡入れなきゃ。


前、無断外泊した時うるさかったもんな。あ、でも今日は帰るからいいかな。でも一応送った方がいいかな。あれで心配性だから。


ふと思い立ったあたしは頭を起こして足元の鞄に手を伸ばす。


なんだか鞄が遠く感じる。手を伸ばしても掴めない。


……あれ?


途端に視界がぐらつく。体が椅子から離れて、床に倒れ込んだ。


もう思考の部分は停止寸前だった。


崩れるように倒れ、火照った頬に床の冷たさが伝わって、あたしは目を閉じた。


ああ、気持ちいい……。


頭はまだぐらぐらする。遠くで翔さんの声がする。


寝かせてよ……。


「りー!」


目の前で翔さんの声がした。頭を動かされて目を閉じたまま眉をひそめるけど、翔さんの声がしきりに聞こえる。


うわあ、あたしってば幸せ者……。


好きだなあ。


にやけてしまう。周りから見たら今のあたしは完全に気持ち悪い人だろう。


そして、目の前が真っ暗になって何もわからなくなった。


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