エンドレス・ツール
「……それで?」


それで、あたしは酔った勢いでやってしまったと?


意識を手放してからの記憶がない。


「……翔さん」

「ん?」


頬にある翔さんの手を握り締める。温かかった。


「……本当にやったんですか?」

「覚えてないの?」

「……居酒屋で倒れてから、ですよね」


翔さんはふっと口元を緩める。


メガネの奥の瞳は穏やかだった。


「……俺も、けっこう酔ってたから」

「翔さん、正気だったら勢いでやる人じゃないですもんね」


本音だった。たぶん、翔さんは一夜の過ちなどしない人だ。一人の女性を愛して、触れて。そういう人だ。


「……まあ、言い訳だけどね。意識はあったわけだから」

「あたし……誘惑したってことですか?」


だって、翔さんからしてくるのはいくらなんでもないだろう。酔い潰れた人を襲うなど、真面目な翔さんはしないと思う。


「……りーのせいじゃないよ」

「……したんですね」


どうしようもない罪悪感が頭の上に乗っかったような気がした。


あたしはこの人に無理やり抱かせてしまったのだ。


< 124 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop