エンドレス・ツール
「ん? 璃里香ちゃん、俺と付き合う気になった?」


くすっと笑う高橋くんに負けた気がして、あたしは慌てて視線を逸らした。


「ふざけないで。念のために聞くけど、その話、作ってないよね」

「あのね、嘘つくのって大変なんだよ。そこまでして璃里香ちゃんを振り向かせようなんて思ってない」

「意外にあっさりしてんだ」

「そんなことして付き合ったって、長続きするはずないし。無理なことを無理やりさせるわけだからね」

「嘘じゃないなら、いいけど」

「経済の女子に聞いてみればたぶんわかるよ。二年生なら、確実に」

「ねえ、高橋くん」

「何?」

「翔さんは、苦しんでるよね」

「うん。普段は見せないけどね。だから、酒を飲むときは、女子がいないとこで飲もうって言ってるんだけど、誘いに断れないんだよね、優しいから」

「それを、元カノに言えばええやんか」


なつがアホらしいと呟いた。


「……なつ」

「東京なら、こっからすぐやん。なんで会わないん? 怖いからや。あの人はな、怖いんや。自分がしたことを覆すことを怖がっとるんや。だからいつまでもウジウジして、女を抱くことで自分のやりきれなさを解消しようとする。でも、そんなんで消えるわけない。翔さんは、わかっとるんちゃう? でも抜け出せない。負のループや」

「……ずいぶんはっきり言うね」


高橋くんは苦笑していた。


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