エンドレス・ツール
翔さんの言っていることが理解できないわけではない。


あたしは翔さんにとって他の女とは相違なかった。それだけだ。


わかっていたのに泣きそうな気持ちになってしまうのは、やはりあたしが心のどこかで期待していたからなのかもしれない。


翔さんに、あたしは特別だったのだと。たぶん、いや確実にあたしはそう言ってもらいたかったのだ。


あたしは、本当にバカだ。


一度抱かれたくらいで何を思い上がっていたのか。


翔さんにあたしの思いが届くのだと何を勘違いしていたのだろう。


これじゃあ他の女と同じじゃないか。


翔さんはこうやって、今までたくさんの女を泣かせてきたのか。


そう思うと、なんだか悲しくなってくる。


目の前の人はなんて悲しい人なのだろう。


そんなことでしか自分が作った傷を埋められないなんて。


いや、埋まってなどいない。埋まっていると思い込んでいるだけだろう。


急にだんまりになったあたしを見て、翔さんが「あのさ、りー」と真顔のまま口を開いた。


「用がないなら、もう……」

「翔さんは悲しい人ですね」


あたしが目頭を押さえてそう言い放つと、翔さんはぴくりとわずかに肩を震わせた。


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