エンドレス・ツール
「……嫌い、ね」


くっと笑い声を漏らして、頬杖をついていた翔さんの顔が上がる。


あたしは体をわずかに強張らせる。


「そういうりーも、俺は嫌いだし」

「……お互い様ですね」


あたしは唇を噛み締める。


自業自得とはいえ、好きな人に嫌いと言われることは、かなりのダメージだ。


「嫌い合ってる仲ね」


翔さんの笑みはあたしの体を硬直させた。


普段の翔さんの笑顔は、あたしを安心させてくれた。太陽の下で寝転んでいるような、そんな開放感に似ていた。


笑顔には種類があるんだ。


そんなことをあたしが頭の中で考えている間に、翔さんの体が動いた。あたしは衝撃にいとも容易くよろけた。


「……翔、さん」


翔さんがすごい形相であたしの両肩を掴んで、体を壁に押し付けた。


「嫌いな者同士がやると、どうなるんだろうね」


その形相のままにやりと笑ってくる翔さんは、あたしの知る翔さんではなかった。


肩を押し付けている力は、あたしでは振りほどけない。


あたしはそんな翔さんの顔を見つめるしかできなかった。

< 153 / 177 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop