エンドレス・ツール
「翔、元カノと付き合ってた時は本当に一途だったんだよ。見ているこっちまで幸せな気持ちになるくらい幸せなオーラ振り撒いてて。だから、別れた時は相当応えたんじゃねーかな。自分から別れを告げたと言っても、嫌いになって別れたわけじゃないから余計に。

そこに女が現れたら、慰めてくれとしか言えないだろ。もしかしたらこの女なら元カノを忘れさせてくれるかもしれないって、無駄な期待をしちゃうんだ。まあ、そんなこと今まで一度もなかったけどな」

「要するに、翔さんは弱いんやな。情けない」

「夏香、あのな、俺だってお前と別れたら翔の二の舞になると思うぞ」

「大丈夫。うち、絶対ケイゴくんと別れへんから」

「夏香ー」

「……あの、話の続きを」


なつに抱き着きそうなケイゴくんを止める。なつはケイゴくんの見えないところであたしを睨みつけていた。


今、ラブラブしてる話じゃないでしょうが……。


「翔は女を抱く直前に必ず俺にメールを送り付けた。わかってるんだ、翔も男だから、理性よりも本能が勝ってしまう。迫られたらやっちまう。だから、俺に助けを求めてきた。

さっきも翔からメールきたんだ。今璃里香ちゃんといる。

『止められるなら止めてみろ』

言い換えれば、こんなことをする俺を止めてくれってことなんだって、ようやくさっき気づいた。真面目だけど変にぶっきらぼうなところがあるから、素直に言えなかったんだな。止められなくてごめんな、璃里香ちゃん」

「いえ……そんな」

「これは止められなかった俺の責任でもあるんだ」

「でも、最後までやられたわけじゃないですし、大丈夫です……」


そうは言ったけど、軽いトラウマにはなるかもしれない。


それくらい、さっきの翔さんは怖かった。


あたしはブラウスの裾を握り締めた。



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