エンドレス・ツール
ケイゴくんから電話がきたのは本当に突然だった。


「璃里香ちゃーんっ」


今日もあたしの後ろから抱き着く高橋くんをあしらう。


「ねえ、彼女がこれ知ったら、怒るんじゃない?」

「大丈夫。璃里香ちゃんのことは女として見てないから。人間としての意味で好きだからさ」

「……あっそ」


そんなくだらない会話をしていたら、あたしの携帯のバイブが鳴った。


「高橋くん、離れて」


電話だった。


しかも、相手は一週間前に親友が別れた相手。


今更、しかもあたしに電話?


ケイゴくんの連絡先は一応知っていたけど、連絡を交わしたことは今まで一度もなかった。


戸惑いを隠せなかったものの、あたしは電話に出た。


「もしもし」

『あ、璃里香ちゃん? 今、暇?』

「一応、暇ですけど」


高橋くんの相手をしてあげられるほどの暇なら。


『今からさ、駅に向かってくれない? ここらへんで一番でっかい駅ね』

「なんでですか?」

『まあ、あまり大声では言えないことなんだけどさ…………』


ケイゴくんとの電話が切れた次の瞬間に、あたしは走り出していた。


「璃里香ちゃん!」


後ろから高橋くんの声が追いかけてきた。


「地獄、見るかもよ」

「わかってる」


高橋くんはふっと笑った。


高橋くんは、今の話を理解したらしい。


もともと知っていたことだったのかもしれない。


「無意識に走り出すくらいだもんね。俺は止めないよ。ただ、もう璃里香ちゃんの前には現れないようにするよ。巻き込まれるのはごめんだし」

「その方がありがたい」

「俺は彼女一筋に戻るよ」

「それがいいよ」


あたしが笑って見せると、高橋くんはぽんと肩を押した。


「いってらっしゃい」

「うん。高橋くん」

「何?」

「あたしね、高橋くんのこと嫌いじゃないよ」

「知ってる」


高橋くんの微笑みは、まさにアイドルのそれだった。


全く、罪な男だ。


あたしは再び走り出した。

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