エンドレス・ツール
とりあえず翔さんを追いかける。


人違いなんじゃないか、とも思ったけど、じゃあ、なんで逃げたんだ?


ヒールを履いていたし、もともと足が遅いあたしはすぐに翔さんを見失ってしまった。


……何なんだ。これ。


とりあえず駅の端まで歩いていって、戻ろうとしたら、視界の端に翔さんが映った。


「……翔さんっ」


気付かれないように背後まで回って声をかけると、びくっと肩を震わせてこちらに振り向く翔さんの顔は引き攣っていた。


可愛いな。


「お久しぶりです、翔さん」

「……りー」


あたしの呼び名を忘れていなかったとわかっただけで、嬉しくなってしまう。


「なんで逃げたんですか」

「りーこそ、なんでここに……」

「ちょうど虫の知らせを聞いたので」

「……ケイゴか」


がっくりと肩を落とす翔さんは相変わらず可愛い。


「……じゃあ、俺が帰ってきた理由も聞いた?」

「はい」

「……着いてきて」


翔さんの手があたしの腕を掴んで、すたすたと歩き始めた。


長袖だからそれほど感じなかったけど、翔さんの手はやっぱり暖かかった。


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