エンドレス・ツール
連れていかれたのはビジネスホテルだった。


しかもシングルの部屋。


事前に予約していたらしい。


「……あたしが入っていいんですかね」

「まあ、何か言われたらダブルの部屋にするし」


翔さんは部屋で荷物を下ろして、ベッドに腰掛けた。あたしは備え付けの椅子に座る。


しばらく沈黙が話す。


やっぱり、あのことをいきなりぶっこむのはかなり勇気がいる。


「あの……翔さん」

「元カノとは、ヨリを戻したよ」


あたしの言葉を遮るように、翔さんが口を開いた。


「……はい」

「東京に行ってから、すぐね。やっぱり、優希もあんな別れ方じゃ煮え切らないってさ」

「……幸せ、でしたか」

「幸せだったよ」


翔さんが寂しそうに微笑む。


あたしは、翔さんが寂しそうな理由を知っている。


聞いてしまった。ここに戻ってきた理由を。


「でも、死んだ」


一瞬、無機質な機械の声かと思った。


その声に頭を上げる。翔さんの顔は感情というものを映していなかった。


あたしは知っていた。さっき電話口で、ケイゴくんに聞いた事実だった。


「事故でね。信号無視した軽トラが突っ込んできて。俺はその場にはいなかったけど」


翔さんの口だけが動く。


「ばかだよな……俺。いろんなものを犠牲にしてまで……優希を追いかけたのに。……優希さえ、いれば……何もいらないって……。……なのに、……なのに…………」


翔さんの右手が顔を覆う。


「優希がいなくなったら……俺には、何が残るって、いうんだよ……。どんだけ……犠牲にしたんだよ……。りーも……。俺、……罰が当たったのかな。…………優希じゃなくて、……俺が死ねばよかったのに…………なんで、なんで……優希なんだよ……。……残酷、過ぎるだろ……こんな、こんな…………」


途中から翔さんは涙声になっていた。


二週間ほど前、翔さんの彼女の優希さんは軽トラに跳ね飛ばされた。頭を強く打っており、即死だったらしい。一週間前に葬式を終え、既に一般企業に内定が決まっていた翔さんは、まず腐れ縁であるケイゴくんのいるこの地に帰ってきたのだ。


ケイゴくんは翔さんが東京に行った後も密かに連絡を取り続けていて、翔さんがこの事故のことを一番に話したのもケイゴくんだったらしい。


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