エンドレス・ツール
「りー」


翔さんの腕があたしの体を引き寄せる。


「あ、あの……」


今日はそういうつもりで来たわけではない。


会いたかっただけだ。


仮に駅で冷たくあしらわれても、あたしはそれで十分だった。


ただ、翔さんが生きていることだけを確認したかった。


大事な大事な人を亡くした人を慰めようなんて、あたしにはできない。


「翔さん、あの……」

「今更だけど……あの時はほんとにごめんな」


あの時……。


あたしが無理やり犯されたかもしれなかった、あの時。


「……もう、二年前ですよ」

「りーに謝ったって……優希が戻ってくるわけじゃない…………。でも……りーや他の女を傷つけたから…………優希は……」


不意に喉の奥が苦しくなったけど、あたしは泣かなかった。


今更、翔さんの思い人に嫉妬してどうするんだ。


でも、いなくなっても、翔さんの心の中にいるのは優希さんで。


あたしは、この気持ちをどうすればいいのだろう。


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